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ではなぜ自分の好きなことを貫き通すと負けてしまうのか?

ぼくの分析したところでは、その理由は大きく分けて三つある。


一つは、自分がそれを好きでやっているということは、裏を返せばお客さんへの奉仕の気持ちが足りないということになり、それを見透かされて、お客さんの気持ちを萎えさせてしまうということがある。

お客さんというのは傲慢で、またとても残酷なところがあるので、奉仕の気持ちが足りないと見えてしまった瞬間に、舞台の上の芸人に幻滅し、興味をなくしてしまうのである。

「あ、この人は私にサービスするつもりはないのだな。自分だけが楽しんでいるのだな」

そう思われたら最後、お客さんの心が暖まることは二度となく、以降、そこでどんな内容のお笑いがくり広げられようと、ほとんど笑ってくれなくなるのだ。


二つ目は、舞台というのはお客さんとともに作り上げていく「共同作業」という意味合いが強い――というのがあるだろう。

「ライブは生もの」と言うが、あれである。どんなに面白い演目でも、お客さんの反応が薄ければ、演じている側のマインドに響いてしまって、上手くいかなくなる。調子が出なくなる。またそれを引きずってしまうようになる。だから、舞台の上の芸人というのは、どんなに自分が好きなお笑いを演じていようと、お客さんの反応が薄ければ、とたんに萎縮したり、自信を失ったりして、負のスパイラルに陥り、とたんに面白くなくなるのだ。

その点では、舞台というのは他の(お客さんの反応がダイレクトに見えない)メディアとは違って、自分の好きなことを貫き通すのがより難しいということができるだろう。


そして最後の三つ目は、これが一番重要なのだが、「人間というものは、本来的には『人に喜んでもらうこと』を至上の喜びとして感じる生き物だ」ということがある。

人間は、本来的には「社会的な動物」なので、ほとんどDNAのレベルから、「他人に喜んでもらうことこそ本当の喜び」だというふうにプログラムされている。だから、自分の好きなことを貫くことは本来的な喜びとはならないはずなのに、生まれてきてからの誤った教育のせいか、そのことを忘れたり、考え違いをしてしまっている人間が多いのである。

実は昔のぼくもそうだったのだが、「人間は自分の個性を貫くことがだいじ」であるとか、「考え方は人それぞれ」とか、「当人の気持ちは他人には絶対に理解できない」など、自分というものをだいじにしすぎた結果、いつの間にか「例え他人に理解されなくても、人間は自分の好きなことを貫いた方が幸せなのだ」と勘違いするようになってしまっているのだ。

しかし、誰でも深層心理のレベルでは「本当は自分の好きなことを貫くことよりも、たくさんの人に喜んでもらうようなことをやりたい」と思っているから、そこで思いの齟齬が生じてしまうのである。アイデンティティが損なわれるのだ。気持ちが引き裂かれて、心がバラバラになってしまうのである。